カテゴリー別アーカイブ: 法律

MAJICAというカードがすでに存在しているのですがドンキホーテは大丈夫なのでしょうか

先日ドンキホーテが「maj!ca」という商標を出願しているのを発見して、もしかして電子マネーを始めるんだろうか、という記事を書きました。

参考:ドンキホーテは電子マネー事業に参入するのでしょうか

コメント欄で「3月4日サービス開始で従業員による試行は始まっている」との情報提供もいただきまして、どうやら本当らしいという確証を得ています(我流さん、ありがとうございました)。

ところが、すでに「MAJICA」というカードが存在しているようです。

MAJICA
ICカード「MAJICA」 – 紀伊電気鉄道株式会社

紀伊電気鉄道のICカードだそうです。路線図によると大阪市内から和歌山市内へ走る本線と、堺市へ至る堺市線、吉野へ向かう吉野線、高野山へ伸びる高野線の3つの支線とからなるようです(参考)。

しかし、どうも様子がおかしいのです。「MAJICA」どころか社名についても商標登録がされていません。MAJICAについての情報も公式サイト以外には見当たりません。いくらローカル線でもニュース記事の一つくらいあってもよさそうなものです。何より、Googleマップを見てもそのような路線は記載されていません。

おかしいと思って公式サイトを漁っていたら理由がわかりました。

このサイトでは「架空鉄道」を扱っています。
本文中には実在する会社様の名称が多く使用されていますが,当サイトの内容は全てフィクションであり、実在の企業・個人とは一切関係ありません。また、このサイトの内容に関して実在の企業に問い合わせる等の行為はお止めください。
尚、当サイトは管理人yamakesoによって運営されています。ご意見・ご感想はお気軽にどうぞ。

ご案内 – 紀伊電気鉄道株式会社

なんと、現実には存在しない鉄道会社のジョークサイトでした。面白いことを考える人もいるものですね。

さて、この紀伊電鉄のMAJICAがあることでドンキホーテのmaj!caが受ける影響はあるのでしょうか。

商標法4条1項10号には、他人の周知な商標と同一類似の商標は、他人の商標が未登録であっても登録を受けることができないことが規定されています。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十  他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

ドンキホーテは全国展開していて和歌山県にも店舗を有していますから、紀伊電鉄のMAJICAが広く知られているものであると、拒絶理由が出されることもあるかもしれません。

私は関東地方から離れたことがなく、関西方面の地理にはあまり詳しくないものですから「そんな路線があるんだー、へー」などと思ってみていました。特許庁の審査は東京で行われていますから、審査官の地理的知識も私と同程度であってもおかしくありません。未登録商標の調査は主にインターネット検索で行われると聞きますので、審査官がジョークサイトであることに気付かなかった場合、拒絶される可能性は十分にあるように思えます。

ちょっと調べればジョークサイトであることはわかるので、最終的には商標登録は問題なくできるでしょう。相手は実際の営業をしている事業者ではないので不正競争の問題もなさそうです。

実害がないとは言え、主にブランド管理の問題から、ドンキホーテとしては看過するのは得策ではないと思えます。サイト運営者へ削除依頼が行くことはあり得るかもしれません。

興味深く見守りたいと思います。


関連記事

ドンキホーテは電子マネー事業に参入するのでしょうか
ゴールデンイーグルスの商標の件を調べてみたら元ライブドアの人が言ってたのとだいぶ違ってた
商標「おんせん県おおいた」と指定役務の関係

ドンキホーテは電子マネー事業に参入するのでしょうか

ソースはこれ。

量販店のドンキホーテを運営するドンキホーテグループの持株会社ドンキホーテホールディングスが「maj!ca」と描かれたロゴマークを「預金の受入れ及び定期積金の受入れ」という役務を指定して商標登録出願していることがわかります。

IPDLではまだ出てこないので詳細な指定役務は確認できていませんが、何かしらの金融サービスを企画しているのであろうと予想できます。

ハウスマーク(社名とか商号とか)の場合には今後の事業展開がどうなるかわからないからとりあえず取ってしまえ、という考えはあるので、一見無関係に思える会社が「預金の受入れ」など金融業に関する役務を指定して商標だけ取っているケースは多いようです。

今回の場合は、社名とは関係のない「maj!ca」という文言ですから、具体的なサービスの構想がある可能性が高いように思われます。

さらに言えば、末尾の「ca」は「suica」や「icoca」と共通しますから、nanacoやwaonのような非接触ICカードによるプリペイド型電子マネーなんじゃないかという根拠のない予感があります。

ちなみにもうちょっと調べていたら、2ちゃんねるの「ドン・キホーテ inバイト板 part19」にそれっぽい投稿を見つけました。

703 FROM名無しさan [sage] 2013/12/18(水) 13:32:21.44
そういえば、メイト職位制()、1ヶ月延期になったらしいよ

704 FROM名無しさan [sage] 2013/12/18(水) 13:34:23.79
>>703
今majicaの絵柄選ぶのに忙しいからだなw

705 FROM名無しさan [sage] 2013/12/18(水) 14:34:48.12
>>704
もう公式で発表あった?
ドンキ以外でも使える?

かなり具体的に企画が進行している様子がうかがえます。社内ではバイトレベルでも知られている周知事項なのでしょうか。

ちなみにドン・キホーテに関する商標はすべてグループの事業会社である株式会社ドン・キホーテが所有していましたが、この商標は持株会社である株式会社ドンキホーテホールディングスが出願しています。

株式会社ドンキホーテホールディングスは2013年12月に純粋持株制に移行した際にできた新しい会社なので、今後は株式会社ドンキホーテホールディングスが一括してブランド管理することになるのかもしれません。

ドンキホーテからの公式発表を楽しみにしています。

追記(2014.2.7)

3月4日からサービス開始で、すでに従業員は利用可能との情報をいただきました(コメント欄参照)。
非接触ICではなく磁気カードという話ですから、コンビニ等では利用できないかもしれませんね。


関連記事

黒田官兵衛の商標取得合戦が激しい
「おもてなし」を含む商標登録出願が乱発中
商標「おんせん県おおいた」と指定役務の関係
「婚学」は登録商標ではありません

選挙公報の著作権

東京都知事選挙の選挙公報が投函されていたので眺めていました。

都知事選の選挙公報は、東京都選挙管理委員会が印刷、配布しているわけですから、当然東京都民の下にしか届かないと思います。でも、都道府県の首長がどんな政策を掲げているかって、特に隣接県の住民などは興味のあるところではないかと思います。

そんなわけで選挙公報をブログに貼り付けたらそこそこ需要があるんじゃないかと思ったのですが、著作権的にいかがなものだろうと疑問を持ちました。

まず、そもそも選挙公報は著作物に該当するかどうかを検討します。著作物の定義は著作権法2条1項に規定されています。

一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

選挙公報は各候補者から提出された原稿を選挙管理委員会が組版して発行するものですから、著作権法12条の編集著作物に該当する可能性がありそうです。

(編集著作物)
第十二条  編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。

選挙公報は提出された原稿をすべて掲載する必要があるでしょうから、素材の選択という行為は発生しません。

選挙公報の掲載順は公職選挙法169条5項により、くじで決定することが規定されていますから、その配列にも創作性はありません。

(選挙公報の発行手続)
5  衆議院(小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員若しくは都道府県知事の選挙について一の用紙に二人以上の公職の候補者の氏名、経歴、政見、写真等を掲載する場合、衆議院(比例代表選出)議員の選挙について一の用紙に二以上の衆議院名簿届出政党等の名称及び略称、政見、衆議院名簿登載者の氏名、経歴及び当選人となるべき順位等を掲載する場合又は参議院(比例代表選出)議員の選挙について一の用紙に二以上の参議院名簿届出政党等の名称及び略称、政見、参議院名簿登載者の氏名、経歴及び写真等を掲載する場合においては、その掲載の順序は、都道府県の選挙管理委員会がくじで定める。

ということで選挙公報は編集著作物には該当しないと考えられます。したがって、選挙公報自体は著作物に該当しないと判断できます。

一方、選挙公報に掲載された記事について、各候補者に著作権が発生する可能性もあります。

各候補者の記事については、その候補者の思想又は感情を創作的に表現したものであると言えると思います。したがって、各記事についての著作物性には問題ないと思います。

ところで、著作権法13条には、権利の目的とならない著作物が列挙されています。

(権利の目的とならない著作物)
第十三条  次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
二  国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第一項 に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第一項 に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの

選挙管理委員会は地方公共団体の機関であることは疑いのないところであり、選挙公報が「告示、訓令、通達その他これらに類するもの」にも該当することも(正確にいずれに該当するかは微妙であるものの)問題ないと思います。

したがって、選挙公報は著作権法13条1項2号に該当し、著作物性があっても権利制限がされていることになります。

ちなみに政見放送は著作権法40条1項により権利制限されますので、これをインタネット上で公開しても問題ありません。実際、多くの政見放送の動画がYouTubeにアップロードされて視聴することができるようになっています。

(政治上の演説等の利用)
第四十条  公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一項において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

そんなこんなで諸々検討した結果ブログに公開しても問題なさそうだという結論に至ったのはよいのですが、実は東京都選挙管理委員会は都知事選挙の選挙公報をPDFで公開されていることを知りました。

リンク:選挙公報|東京都知事選挙 2月9日(日)わたしたちにできることがある。

これは総務省が2012年4月29日に出した通知が根拠となっているようです。

 総務省は29日、国政選挙などで候補者の経歴や政策を紹介する都道府県や市町村選挙管理委員会発行の「選挙公報」について、これまでの印刷物による戸別配布に加え、自治体のホームページ(HP)への掲載を認める通知を、都道府県を通じ全国に出した。
 これまでは各戸の郵便受けへの投げ込みや、新聞折り込みでの配布が主体で、HP掲載については可否が明確になっていなかった。インターネットの普及に伴い選挙啓発のためHP掲載を認めるべきだと判断した。今後HP掲載は各選管が選挙ごとに判断。並行して戸別配布もこれまで通り行う。

出典:選挙公報のHP掲載認める ネット普及で総務省

じっくり選挙公報を読み込んでしっかり投票先を決めたいと思います。


関連記事

【お詫び】選挙期間中の公開討論会は可能だそうです
2014東京都知事選挙、ボートマッチの結果
脱原発が都知事選の争点であっていい理由、あるいは世田谷区にみる地方公共団体の脱原発
選挙期間中の公開討論会は禁止されています

「介護」は造語で登録商標らしい

少子高齢化が社会問題となって久しく、介護という言葉を聞かない日はないと言っても過言ではありません。

辞書にも普通に掲載されている言葉です。大辞泉では「介抱」と「看護」を組み合わせた言葉という説明がされています。

かい‐ご 【介護】

[名](スル)病人などを介抱し看護すること。「寝たきりの母を―する」

出典:介護 とは – コトバンク

ところが、どうも「介護」というのは最近の造語らしいという話を聞きました。フットマーク株式会社の磯辺社長が「介助」と「看護」から考えたものと語っています。

そこで生み出されたのが「介護」という言葉。「介助と看護を合わせて作った造語で、たすける、まもるという意味が込められています。1984年に商標登録をしましたが、自由に使ってもらえるようにしておいたのがよかった。おかげで、こんなにも世に広まりました」と、磯部社長は嬉しそうに語る。

出典:東商・知財経営百選「フットマーク株式会社」

フットマーク株式会社と言われてもどんな会社かわからなかったのですが、ロゴを見たら思い出しました。子どもの頃、このマークがついた水泳袋を使っていた憶えがあります。

footmark

フットマーク株式会社は、「介護」について商標登録もしています。第1652072号、第1782616号、第1794269号、第1887948号です。

指定商品は、17類 被服、21類 化粧用具、22類 履物、24類 運動具などです。

(111) 【登録番号】 第1652072号
(151) 【登録日】 昭和59年(1984)1月26日
(210) 【出願番号】 商願昭55-28477
(220) 【出願日】 昭和55年(1980)4月11日
    【商標(検索用)】 介護
(561) 【称呼(参考情報)】 カイゴ
(732) 【権利者】
    【氏名又は名称】 フツトマ-ク株式会社
1652072

また、株式会社法研が16類 雑誌、新聞について商標登録しています。株式会社法研は福祉介護の専門誌を発行している会社のようです。

(111) 【登録番号】 第4106101号
(151) 【登録日】 平成10年(1998)1月23日
(210) 【出願番号】 商願平8-12191
(220) 【出願日】 平成8年(1996)2月9日
    【商標(検索用)】 介護
(561) 【称呼(参考情報)】 カイゴ
(732) 【権利者】
    【氏名又は名称】 株式会社法研
4106101

ところが、Wikipediaによると、1892年には法令上確認されているようです。原文が確認できないですが、ちょっと意味合いは違っていたようです。

日本で「介護」という言葉が法令上で確認されるのは、1892年の陸軍軍人傷痍疾病恩給等差例からであり、介護は施策としてではなく、恩給の給付基準としての概念であった。

出典:介護 – Wikipedia

真偽のほどはよくわかりませんが、普段何気なく使っている言葉に新たな発見があると人に教えたくなったりしますね。

飲み会で話題に困ったら話のまくらにいかがでしょうか?

アホ男子母死亡かるたの著作権問題

「アホ男子母死亡かるた」とやらが話題となっていると聞いて見てみました。

  1. 2012年10月頃、twitter上で、玲奈さんが「#WM死亡かるた」「#WM幸せかるた」というハッシュタグを作成。これが流行る。
    (WMとは、Working Motherのことらしい)
  2. 2012年10月頃、これを見てイシゲスズコさんが「#アホ男子母死亡かるた」というハッシュタグを作成。これも流行る。
  3. 時は流れて2013年12月頃、「アホ男子かるた」という本が出版されることが発表される
  4. 出版社のWebサイトでは「#アホ男子かるた」「#ahodanshi」でネタの募集をしている
  5. 優れた作品は「アホ男子かるた」のネタとして漫画になります。
    twitterではハッシュタグ「#アホ男子かるた」または「#ahodanshi」と入れてつぶやいてください。

    出典:【株式会社ユーメイド】ファッション > 立ち読み:アホ男子かるた

  6. 出版社のWebサイトには本書のサンプルとしてイシゲスズコさんが最初に投稿したものと酷似するフレーズが掲載されている
  7. あ

ここまでの経緯は、以下の資料を参考にしました。

*1「アホ男子母死亡かるた」界隈で何やら焦臭いようですが大丈夫でしょうか(山本 一郎) – 個人 – Yahoo!ニュース
*2「アホ男子かるた」出版の件 – スズコ、考える。
*3【株式会社ユーメイド】ファッション > 立ち読み:アホ男子かるた
*4【パクリ?】#アホ男子かるた「ツイート無断使用」書籍発売騒動まとめ【未解決】 – NAVER まとめ
*5#アホ男子母死亡かるた まとめ – Togetterまとめ
*6アホ男子かるた – Togetterまとめ
*7「アホ男子かるた」編集者と著者のツイートまとめ – Togetterまとめ

状況がよくみえないところもあり、いろいろと論点を含んでいる難しい問題だと思いますが、ここでは以下の点について考えてみたいと思います。

twitterに投稿されたツイートを引用、または翻案して商業的に利用することは著作権的に問題ないのか?

細かい説明は省略しますが、twitterに投稿したツイートはユーザに著作権が生じます。もちろん投稿の内容にもよります。このような短い文言であれば、例えば、キャッチフレーズやスローガンなどには著作権はないとの説もあります。一方、俳句や短歌には当然のように著作権はあります。いろいろ面倒なのでここでは著作権がある前提としますが、その著作権はツイートをしたユーザに帰属します。

twitterの利用規約では、ユーザがtwitterに投稿した文言及び写真は、そのコンテンツを利用する無償のライセンスをtwitter社に許諾することになります。利用には、複製、改変が含まれています。

ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介して、自ら送信、投稿、または表示するあらゆるコンテンツに対する権利を留保するものとします。ユーザーは、本サービス上にまたは本サービスを介してコンテンツを送信、投稿、表示することをもって、媒体または配布方法(既知のまたは今後開発されるもの)を問わず、かかるコンテンツを使用、コピー、複製、処理、改変、修正、公表、送信、表示および配布するための、世界的な非排他的ライセンスを(サブライセンスを許諾する権利と共に)当社に対して無償で許諾するものとします。
ヒント:このライセンスによって、ユーザーは、当社や他の利用者に対し、ご自身のツイートを世界中で閲覧できるようにすることを認めたことになります。

出典:Twitter / サービス利用規約

一方でツイートの利用をするにはTwitter APIを使用しなければいけないことになっています。

コンテンツまたは本サービスの複製、修正、これに基づいた二次的著作物の作成、配布、販売、移転、公表、実演、送信、または他の形での使用を望む場合には、本サービス、本規約またはdev.twitter.comの定めにより認められる場合を除いて、Twitter APIを使用しなければなりません。
ヒント:当社では、コンテンツの幅広い再使用を奨励および容認しており、Twitter APIはこのために提供しています。

出典:Twitter / サービス利用規約

ツイートを書籍にする過程でどの程度のTwitter APIの利用が求められるのかは明確ではありません。Twitter APIで可能な範囲(例えば、ツイートの埋め込みコードの生成とか、ツイートのURLへのリンク、とか)でしか利用してはいけないのか、Twitter APIを利用してツイートを抜き出せばそこから先は自由にやっていいのか、などなど。

ただし、利用規約上改変も含めて利用できる権利をTwitter社に許諾しているわけですから、ツイートを無断で利用されても文句は言いにくい面はあろうかと思います。どうやってツイートを利用したかなんて内部の人にしかわかりませんからね。

もう一つ検討すべきは同一性保持権についてでしょう。同一性保持権は著作者人格権ですから、翻案権を許諾していたとしても同一性保持権は依然として著作者が保持します。

翻案権を許諾した上で同一性保持権を行使することが可能かという問題には諸説あるようですが、いずれにしても翻案を許諾しておいて同一性保持権の侵害を主張できる範囲は狭く解釈するべきと考えられているようです。

商業的に利用するのはどうなの?って話はあると思います。誰しも自分のアイデアで他人が勝手に金儲けしてたら気分悪いですね。でも、書籍化はよくて、広告を貼り付けたTogetterやNaverまとめへの転載はいいのか、とか、原稿料が出る記事にツイートを引用するのはいいのか、とか、現在のWebの状況では線引きも難しそうです。

現状のTwitterの利用規約を見る限り、ツイートを第三者に無断で利用されても著作権侵害にはならないし、それが商業的な利用であっても結論は同じであろう、と私は思います。

前掲の山本一郎さんの記事*1で「やや特殊な例」と前置きして紹介しているハイチ地震の写真の事例は、無断転載した写真がかなりニュースバリューのあるものだったようです。これをもってツイートの転載がすべて著作権侵害だし、裁判やったら勝てる話かというとそれはないだろうと思います。そもそも損害額の算定ができないし、仮にがんばって算出しても弁護士費用にもならないでしょう。山本さんが言う通り、”かなり”「特殊な事例」と考えるべきです。

ちなみに、Twitter上の著作権の問題は、米国カリフォルニア州法を準拠法とすることになっていますから、厳密に日本の著作権法で考えても意味がない面もあると思います。

本規約およびそれに関連して行われる法的行為は、米国カリフォルニア州法の抵触法に関する規定またはご自身の居住している州もしくは国にかかわらず、米国カリフォルニア州の法に準拠するものとします。本サービスに関連する一切の請求、法的手続または訴訟は、米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州裁判所においてのみ提起されるものとし、ユーザーはこれらの裁判所の管轄権に同意し、不便宜法廷地に関する一切の異議を放棄するものとします。

出典:Twitter / サービス利用規約

さらに言えば、紛争になったときに日本の裁判所が果たして裁判管轄を認めるのかも怪しいし、下手したら日本人同士がカリフォルニアの裁判所で訴訟を行うなんて場面も起こり得るかもしれません。それこそとんでもない裁判費用がかかることになります。

この辺の話は、利用規約や著作権法の原則的なところを考えているだけで、当事者間で特約があればクリアできる問題でもあります。前掲のイシゲスズコさんの記事*2によれば、著者の甘井ネコさんはtwitter社から許諾を受けてやっているとの見解であるようです。

著者の方に直接、

「あのかるたのツイートは私のものだと思うのだけど、出版社側も含めどういう経緯で流用してるのですか?」

と伺いました。

著者の方からは「自分は一主婦でよくわからないがtwiiter社の許可等法的なものはクリアされていると編集から言われた」とのお返事をくださいました。

出典:「アホ男子かるた」出版の件 – スズコ、考える。

書籍を出版してビジネスをしている以上「一主婦」はなかろうと思いますが、著者自身に権利処理の責任を負わせるのは酷であるとは思います。出版社がどのような見解で法的なものをクリアしたと主張するのかは大変興味のあるところです。

利用規約はともかくとして、出版社が最初から「#アホ男子母死亡かるた」界隈のユーザさんに告知した上で新たにネタを募集した範囲で企画していれば、おそらく何の問題もなかったはずです。

とは言ってもすべての人にそうした慎重な対応を求めるのも酷な話で、膨大なユーザを抱えるに至ったTwitterにとって商業利用も含めて無断利用し放題と解釈され得る利用規約で運営することはあまり得策でもないような気がします。権利上どうかはともかく、勝手に自分のアイデアをパクられて改変されるのは気分のいいものでないのは理解できます。

そんなわけで、この件についての私の感想は、こうです。

追記(2014.1.30)

出版元のユーメイドから『アホ男子かるた』の販売を無期限延期とすることが発表されました。

enki

発表文によると出版元がTwitter社の公開するガイドラインから無断利用も問題なしと判断したとのことです。

ブロードキャストには以下を含みますが、この限りではありません。メディアが提供する(全ての形態のテレビ、ラジオ、衛星放送、インターネットプロトコル、ビデオ、専用の無線ネットワーク、インターネット販売など)全てのツイートの展示、配布、放送、複製(再生)、公共パフォーマンス、その他一般に公開されるものです。これは既存のもの、現在開発中のものを問いません。当ガイドラインの条件に沿っているか不明確な場合は下記よりお問い合わせください。

出典:ブロードキャストでのツイート利用に関するガイドライン

すべきこと

  • ツイートが番組内に表示されている間は、ツイートのすぐそばにTwitter bird http://www.twitter.com/about/logosを表示させる。
  • 各ツイートにユーザーの名前と、ユーザー名(@ユーザー名)を表示する。
  • ツイートの全文を使用する。改変は技術的な問題部分のみとする(例:リンクを外す)
  • Twitter birdのアイコンのサイズは内容に合わせた適切なサイズであること。一行の文字列よりも少し大きいくらいが適当です。

してはいけないこと

  • ユーザーの正体を削除、ユーザーを特定する情報を削除、改ざんしたり、不明瞭にしたりすること。ユーザーの安全性が懸念されるような場合を除き、ツイートを匿名のまま掲載すること。

出典:ブロードキャストでのツイート利用に関するガイドライン

そんなわけで、発表文に触れた私の感想は、こうです。


関連記事

はてな匿名ダイアリーからの転載はアリなのか

流行語を商標登録出願しまくってる人がいる

興味本位で2013年の流行語がどれくらい商標登録出願されているかをウォッチしていたのですが、どうも個人で出願しまくっている人がいることに気づきました。

流行語大賞を受賞した東進ハイスクール林修先生の「今でしょ」。

2020オリンピック招致最終プレゼンで滝川クリステルさんが発して話題になった「おもてなし」。

連続ドラマの歴代最高視聴率を記録した『半沢直樹』の決めゼリフ「倍返し」。

サッカー日本代表がワールドカップ出場を決定した際に渋谷駅前の交通整理で活躍した「DJポリス」。

流行語とは違うけど、大ヒット少年漫画『ONE PIECE』の主人公を中心とした一味の呼び名「麦わらの一味」。

単に「麦わら」も。

今のところ「じぇじぇじぇ」は出願していない模様。

他にも、「geek girl」とか「PRINCE ART」とか「スイーツナビ」とか、私には由来がわからなかったので取り上げていませんが、多くの出願をされているようでした。

一応申し添えておきますが、日本の商標法は先願主義なので、無関係な人間が商標登録出願すること自体はまったく問題がありません。個別的に問題がある場合は審査で拒絶されるだけですし、間違って登録されたら異議申立もできるし、無効審判を請求してもよいですから。

しかし、出願人名義が共同出願もあれば単独出願もあるし、指定商品もそれぞれ異なっていたりして、それなりの戦略をもって出願しているようにも見えます。同じ人が単に流行語を出願しているだけにしては不可思議な面があります。

どのような意図をもって出願しているのか、お話を伺えたら面白いかもしれません。もしこの記事がご本人の目に触れましたらコメントなどいただけますと幸いでございます。


関連記事

久慈市のお菓子屋さんの商標「じぇじぇじぇ」が拒絶されたのは公序良俗違反じゃないのでしょうか
「おもてなし」を含む商標登録出願が乱発中
黒田官兵衛の商標取得合戦が激しい

久慈市のお菓子屋さんの商標「じぇじぇじぇ」が拒絶されたのは公序良俗違反じゃないのでしょうか

2013年の流行語大賞に選ばれた「じぇじぇじぇ」について、岩手県久慈市のお菓子屋さんとNHKエンタープライズとが商標登録出願をしていることが判明し、賛否両論となっているようです。

簡単におさらいすると、「じぇじぇじぇ」とは、NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』の中で使われたセリフであり、ドラマの舞台となった久慈地方で感嘆を表すときに使用される方言だそうです。

この「じぇじぇじぇ」が人気を博したため、これを知った岩手県久慈市のお菓子屋さんが5月に商品名を「じぇじぇじぇ」とするクッキーを販売するとともに商標登録出願をしました。一方でNHK側は1か月遅れの6月に「じぇじぇじぇー!」なる商標登録出願をしました。

 久慈市の菓子店『沢菊』が「じぇじぇじぇ」を商標出願したのは今年5月。『あまちゃん』が大ブームになっていたころで、ドラマのロケ地となった久慈市ではよりいっそう話題となっていたタイミングだ。
 
 同社が商標使用を指定した商品は「菓子」で、「じぇじぇじぇ」「ジェジェジェ」の2つを出願。つまり、この出願が通れば同社だけが菓子に「じぇじぇじぇ」「ジェジェジェ」という名称をつけることができるのだ。すでに同社では5月から『じぇじぇじぇ』という商品名のクッキーを販売している。

(「じぇじぇじぇ」が商標出願されていた NHKの対応やいかにより)

実際の出願を確認してみました。

久慈市のお菓子屋さん「有限会社沢菊」の出願は、出願日が2013年5月10日、出願番号が「商願2013-39171」、指定商品は「30類 菓子」です。平仮名の「じぇじぇじぇ」と片仮名の「ジェジェジェ」を二段書きにしています。

2013-39171

対する株式会社NHKエンタープライズの出願は、出願日が2013年6月18日、出願番号が「商願2013-46638」、指定商品は「30類 菓子」を含む計12類と広範囲に及んでいます。水色のポップな字体で図案化した商標です。

2013-46638

日本の商標制度は先願主義なので、原則としては、先に出願したお菓子屋さんが商品「菓子」について商標「じぇじぇじぇ」を取得し、NHKエンタープライズは「菓子」と類似しない範囲の指定商品を削除する補正を経れば商標「じぇじぇじぇー!」を取得することになるはずです。

ところがこのほど、特許庁がお菓子屋さんにもNHKエンタープライズにも登録を認めないとする拒絶理由通知を出したことが報じられていました。

じぇじぇじぇー!

 その理由は、特許庁が双方に、出願を認めない旨の「拒絶理由通知書」を送ったこと。商標登録は、先に出願した方が認められるのが原則。特許庁のデータによれば、NHKエンタープライズは、同一か類似する商標の出願が先にあることを理由に出願を拒絶された。それは原則どおりとしても、先に出願した菓子店までNGとは理解不能だ。どういうことなのか。

「先願の菓子店に拒絶理由通知書を送ったのは、<じぇじぇじぇ>がNHKのドラマで広く浸透したため、菓子店が<あまちゃん>人気にあやかってビジネスをしていると消費者が誤解する恐れがあると判断したからです」(特許庁担当者)

(地元菓子店もNHKもNG…「じぇじぇじぇ」の商標登録が宙ぶらりんより)

特許庁担当者が「消費者が誤解する恐れがあると判断した」と語っているので、拒絶の理由は商標法4条1項15号のようだ、という解釈をしている人が多いようです。

第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十五  他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

これはかなり意外な判断だという印象を持ちました。というのも、「じぇじぇじぇ」はドラマの中で発せられたセリフに過ぎず、何らかの商品の出所表示や識別標識として用いられているわけではないからです。

試しにNHKが販売している関連グッズを探してみたのですが、「あまちゃん じぇじぇじぇマスコット あきちゃん/ゆいちゃん」しか見つかりませんでした。

これはこれでかわいい。好き。

akiaki
出典:NHK「あまちゃん」関連グッズ通販|あまちゃんモール

テレビ番組の決め台詞などを商品名にしてグッズ販売することが一般的なことだという事情があれば4条1項15号を適用するのもあり得るのかな、という感じはします。実際に『倍返し饅頭』なるものが発売されてTBSが対応に苦慮しているという記事も目にしました。

私は最初からお菓子屋さんが拒絶される可能性はかなり低いんじゃないかと思っていました。拒絶されるとしたら、その理由は公序良俗違反(4条1項7号)くらいだろうと思っていました。

第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
七  公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

4条1項7号に該当するとして商標登録が拒絶された審決をいくつか見つけたので紹介しておきます。

1つ目は「篤姫」についてNHKと無関係な人が出願して拒絶された事例です。

上記(3)の事実からすれば、「篤姫」は、NHKの大河ドラマ「篤姫」の制作発表ないし放映を契機に、全国的に周知・著名な人物名になったものと認められる。
そうとすると、「篤姫」の文字からなる本願商標を、その指定役務について、前記ドラマの製作者・放送者等と関係が認められない請求人(出願人)が自己の商標として使用することは、前記ドラマの主人公「篤姫」の人気に便乗し不正の利益を得る目的をもって使用するものと判断するが相当であって、公正な商取引の秩序を乱すおそれがあり、社会の一般的道徳観念に反するものといわざるをえない。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号で定める「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。

(拒絶査定不服の審決|不服2007-29500「篤姫」)

もう1つは「世界に一つだけの花」という商標をSMAPや槇原敬之と無関係な人が出願して拒絶された事例です。

引用楽曲は、2003年3月5日にシングルヴァージョンが発売されて以来、同年5月には200万枚と突破し、JASRAC賞を2004年(金賞)、2005年(金賞)、2006年(銅賞)を獲得し、2003年、2005年、2007年及び2009年の紅白歌合戦で歌唱される程に国民的な歌謡曲と認められる。
そうすると、需要者間に広く知られ周知・著名となっている引用楽曲のタイトル及び歌詞中のフレーズに本願商標と同一と認められる「世界に一つだけの花」の文字を、その作詞家、作曲家、実演者及び関係者と何ら関係のない請求人が、その指定商品について登録、使用することは、本願商標の登録出願前よりその周知著名性が継続している引用楽曲のもつ顧客吸引力に便乗し、本願商標を採択したといわざるを得ないから、社会の一般的道徳観念に反するものであって、社会的妥当性を欠き、公正であるべき商取引の秩序を乱すおそれがあるものといわなければならない。

(拒絶査定不服の審決|不服2009-6939「世界に一つだけの花」)

いずれも著作物のタイトルなので商標的使用はされていなかった言葉ですが、それに由来のある人たちと無関係な人が使用を独占するのは社会の一般的道徳観念に反するから認められないという判断をしています。

報道された内容には、拒絶理由が4条1項15号であったことは別に書いてありません。特許庁担当者のコメントでは「人気にあやかって」などと言っているので、これらの審決と同様に、公序良俗違反(4条1項7号)で拒絶したのではないかという気がします。

個人的には、昔から存在していた方言がドラマの中で人気になったからといって、半永久的に排他的に使用できる権利をNHKに与えてしまうのはいかがなものかという感想は持ちます。

NHKさんには、仮に商標権を取得できたとしても、地元の業者さんには無償でライセンスするなどの大人の対応をお願いしたいところです。


関連記事

「おもてなし」を含む商標登録出願が乱発中
黒田官兵衛の商標取得合戦が激しい
じぇじぇじぇ、入間しおりが東武東上線で上野に通っても全然おかしくないでがす!

「婚学」は登録商標ではありません

某旧帝国大学で授業が行われていると最近話題の「婚学」ですが、担当講師の方が商標登録しているとのことです。

「婚学」は佐藤剛史の登録商標です。

商標権を侵害した者には、
10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、
又はこれらが併せて科されます。(商標法78条)

また、法人の代表者、従業者がその業務に関し、
侵害行為をした場合には、その行為者が罰される外、
法人にも3億円以下の罰金刑が科されます。(商標法82条)

(「婚学」は佐藤剛史の登録商標です。 | 佐藤剛史のofficial blogより)

IPDLで調べてみました。登録第5590896号のようです。

(111) 【登録番号】 第5590896号
(151) 【登録日】 平成25年(2013)6月14日
(210) 【出願番号】 商願2013-4730
(220) 【出願日】 平成25年(2013)1月25日
    【商標(検索用)】 婚学\こんがく
(541) 【標準文字商標】
(561) 【称呼(参考情報)】 コンガク
(732) 【権利者】
    【氏名又は名称】 佐藤 剛史
(511) (512) 【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
16 印刷物,紙類,文房具類
41 技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供
45 結婚に関するカウンセリング及び指導,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供

5590896

あれだけ婚活をバカにした言い方しておいて「結婚に関するカウンセリング及び指導,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介」などの役務を商標登録するとはどんな了見なのでしょうか。私には理解できません。他者の使用によるイメージダウンを回避したいんでしょうかね。すでにイメージは地に落ちてると思いますけどね。

さて、特許庁に登録されている商標は、画像の通り、漢字の「婚学」とふりがなの「こんがく」が二段で表記されているものです。

これはいわゆる二段併記商標というもので、「婚学」と「こんがく」が並んで表記された状態で初めて一つの商標とされます。決して、「婚学」と「こんがく」とに別個の商標権が発生するわけではありません。

商標権の効力は同一の商標だけでなく類似の商標にも及びます(商標法37条1号)。この登録商標に対して、第三者が無断で「婚学」を使用した場合、普通に「こんがく」と読めますから登録商標と類似するとして、商標権の侵害とみなされます。なので、この二段併記の商標でも第三者の使用を防止するという意図はある程度達成できるでしょう。

ところが、第三者がこれと異なる振り仮名を付して使用した場合には厄介なことになります。例えば、「婚」という字は「くながい」「よばい」とも読むそうです(Weblio辞書)。一般の人はこのような読み方は自然には出てきませんから、「婚学\こんがく」の二段併記からは、例えば「よばいがく」という称呼は発生しません。

ここで第三者が「婚学\よばいがく」とかいう出会い系サイトを運営したとしましょう。出会い系サイトは「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介」に他なりませんから指定役務と同一の役務に使用しています。しかし、上記のように商標が類似しないと判断されそうですから、商標権の侵害にはならない可能性が高いです。

ということで、登録商標となっているのは漢字と平仮名の二段表記である「婚学\こんがく」です。「婚学」は登録商標ではありません。佐藤剛史さんには、早めに漢字のみの商標「婚学」を登録されることをオススメしたいです。

と思ったら、すでに漢字のみの「婚学」を商標登録出願している会社が存在しました。指定役務も被っているようです。

審査でどのように判断されるか楽しみですね。

(210) 【出願番号】 商願2013-63001
(220) 【出願日】 平成25年(2013)7月31日
    【商標(検索用)】 婚学
(541) 【標準文字商標】
(561) 【称呼(参考情報)】 コンガク
(731) 【出願人】
    【氏名又は名称】 株式会社デュナミス
(511) (512) 【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
39 結婚もしくは交際を希望する者に対する小旅行・日帰り旅行・観光ツアー・ゴルフツアー・観劇ツアー・映画鑑賞ツアー・スポーツ観戦ツアー・スケッチ旅行の企画及び実施並びにこれらに関する情報の提供,結婚もしくは交際を希望する者に対する海外挙式・海外移住を考えるための現地視察旅行の企画及び実施並びにこれらに関する情報の提供,結婚をしていて海外移住を考える者に対する現地視察旅行の企画及び実施並びにこれらに関する情報の提供
41 結婚もしくは交際を希望する者に対するパーティー・興行(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)の企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供,その他の興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),結婚もしくは交際を希望する者に対する音楽演奏を伴うパーティー・興行の企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供,結婚もしくは交際を希望する者に対するスポーツイベント・興行の企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供,結婚もしくは交際を希望して行う活動に関するパーティー・イベントの企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供,結婚もしくは交際を希望する者に対する講演会・講習会・研修会又はセミナーの企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供,結婚もしくは交際を希望して行う活動に関する講演会・講習会・研修会又はセミナーの企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供,結婚もしくは交際を希望して行う活動に関する知識の教授,技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,書籍・電子出版物の制作及びそれらに関する情報の提供,

参考文献

葦原エミ、二段併記商標について、パテント、Vol.63、No.4、2010[pdf]
2段書きの商標登録についての質問です。 – Yahoo!知恵袋


関連記事

最近話題の婚学について

弁理士試験の最終合格者数が例年通りだった意味

2013年11月7日、平成25年度弁理士試験の最終合格発表がありました。

弁理士試験は工業所有権審議会の主催により年一回行われる国家試験です。短答試験、論文試験(必須、選択)、口述試験と、三次試験まであります。今回は3つの試験すべてを合格した最終合格者の発表があったということです。それはすなわち、10月に実施された最終関門、口述試験の合格発表でもあります。

公表された結果は以下の通りです。最終合格者数は715名でした。

1.平成25年度弁理士試験の結果概要
  志願者数7,528人(対前年比5.1%減)
  受験者数6,780人(対前年比6.2%減)
  受験率(受験者数/志願者数)90.0%(前年は91.2%)
  最終合格者数715人(対前年比7.5%減)
  合格率(最終合格者数/受験者数)10.5%(前年は10.7%)
  最終合格者平均受験回数4.80回(前年は4.13回)

(平成25年度弁理士試験の結果についてより)

ここ数年の口述試験の結果だけをまとめてみました。

年度 受験者数 合格者数 合格率
H19 659 613 92.1%
H20 648 574 87.7%
H21 1,019 813 79.3%
H22 1,048 756 70.1%
H23 1,006 721 67.1%
H24 1,134 773 63.4%
H25 825 715 82.9%

※合格者数を受験者数で割った値と合格率が異なるのは工業所有権法免除者(特許庁審査官など)が合格者に含まれているからです。

平成21年以降に急激に受験者数が増え、それに合わせて(というよりも、それがために)、合格率が5年の間に90%台から60%前半まで低下しました。ところが、今年は受験者数(すなわち論文試験合格者)がだいぶ減り、合格率が急激に高くなりました。

私は論文試験の合格発表の後に、今年の最終合格者は500人台の後半くらいじゃね?と予想しました。大外れもいいとこです。穴があったら入りたい。

昨年の口述試験の合格率は63.4%でした。受験指導に関わっている知人に聞く感じでは、受験生のレベルは昨年から上がっている印象はないようです。口述試験は受験生の評価が各科目3段階ですから、合格者間の調整が利かない試験です。おそらく合格率は例年通り60~70%あたりに落ち着くでしょう。受験者数が905名とすれば、543~633人です。

そんなわけで、私は、最終合格者数は500人台の後半と予想します。

今年の弁理士試験は前年までの4年間と大きく傾向が変わりました。短答試験、論文試験の合格者数はそれぞれ7割、4割と減少しました。一方、口述試験の合格率は急上昇して最終合格者数は例年通りの700人台となりました。

なぜこんなことが起きたのでしょうか。

ここ数年、口述試験の合格率が急低下したことに対して多くの批判がありました。口述試験は数日掛けて実施されるため受験生によって出題が異なります。また、試験官も特許庁職員、弁理士、学者など様々なバックグラウンドの人が混ざっています。試験官の個人差も大きく、当たった試験官によって合否が大きく左右されます。端的に言えば、極めて公平性が欠ける試験形態です。そのような試験で受験者の3分の2を不合格とするのは国家試験として適切ではないのではないか、ということです。

試験を運営する工業所有権審議会としても、この状況を修正したい意図があったのではないでしょうか。つまり、口述試験の合格率をリーズナブルな値(おそらくH20年以前の90%前後あたり)に戻すために採点基準を緩めにしたのではないかと言うことです。

幸いなことに、昨年4月に弁理士登録数は長年の目標であった1万人を突破しました。国内の特許出願数が低位安定する中で、これ以上の合格者の増加は望まない既得権者は大量にいます。口述試験の合格率を上げつつ最終合格者数を押さえるには、当然口述試験の受験者数を絞るしかありません。つまり、論文試験の合格者数を減らす必要があります。

ところで、昨年の口述試験では361名が不合格となっています。口述試験に不合格となると、ほとんどの人は翌年も口述試験のみの受験となります。つまり口述試験対策のみに1年を掛けてきた受験生がそれだけいるということです。従来より採点基準を緩めれば、これらの人は問題なく合格を手にするでしょう。さらに今年初めて口述試験を受ける人も昨年まででは不合格だったレベルの人も合格を手にしたかもしれません。

これらの事情があいまって最終合格者数は例年通りとなったのでないかと推測します。つまり、今年、短答試験、論文試験と合格者を絞ったにもかかわらず最終合格者数が例年通りだったのは、昨年までの口述試験不合格者数が多過ぎた結果なのです。

今年の口述試験の不合格者数は110名でした。来年も論文試験の合格者数を500人程度とすれば、口述試験の受験者数は600名程度となります。口述試験の合格率が90%なら最終合格者は540名程度になります。

弁理士会は毎年の合格者数は220名程度が適正と主張しています。これは弁理士登録1万人を維持して、実稼働40年と考えたときに高齢による引退などの自然減が毎年この程度であろうという予測が根拠になっています。引退するような高齢の方が弁理士になった当時はほとんどの人が特許事務所等で独占業務に従事していたはずです。近年は企業内弁理士も多く活躍されており、独占業務に従事することのみが弁理士の仕事ではありません。実際には弁理士となる資格を将来の保険のために取得する若い人も多く、試験に合格しても登録しない人も結構な割合になっています。220名が適正だとしても合格者数はそれよりも大目にすべきでしょう。

個人的な感覚としても500名前後の合格率というのは現在の業界動向にマッチした数字のように思えます。ボーナスステージは今年で完全に終結したと思っていいんじゃないでしょうか。

そんなわけで、私は来年の弁理士試験の最終合格者数を550名前後と予想します。当たったら何かください。


参考記事

弁理士短答試験、合格者数7割減の衝撃
弁理士論文試験、合格者数4割減の必然

ゴールデンイーグルスの商標の件を調べてみたら元ライブドアの人が言ってたのとだいぶ違ってた

元ライブドア取締役の熊谷史人氏がゴールデンイーグルスの商標権をライブドアが先に押さえていたとTwitter上でつぶやいたことが話題になっていました。

その後、ライブドアの商標権に気が付いた楽天が接触してきて商標権を買い取ってもらった、とのことでした。

へー、と思って商標登録を確認してみたのですが、楽天株式会社が保有する登録商標で関連しそうなものは「東北楽天ゴールデンイーグルス」(第4875362号、第4850204号)「楽天イーグルス」(第4850205号、第4875362号、第4875363号、第5153963号、第5272704号、第5381296号)しか存在しません。

ライブドア社が「楽天」と入った商標を出願するわけがないので、少なくとも現時点ではライブドア社が先んじて登録したという「ゴールデンイーグルス」商標は存在していないと判断できます。

もしかしたら当時の記事とか残ってるかも、と思って探してみたら、案の定出てきました。インターネッツって素晴らしい。

楽天は2004年10月22日、プロ野球への新規参入を認められた場合の新チーム名を「東北楽天ゴールデンイーグルス」(通称・楽天イーグルス)にすると発表しました。しかしライバルのライブドアが「livedoorイーグルズ」の商標登録を21日に、特許庁に出願済みだったことがわかりました。商標法では類似とみなされた場合、先に出願した方が優先されます。特許庁のホームページで「楽天イーグルス」の出願データを検索すると、出願日は2004年10月22日となっています。つまりライブドアのほうが出願は1日早いので、「livedoorイーグルズ」が商標登録され、「楽天イーグルス」が類似と判断されると商標法的には「楽天イーグルス」が使用できない可能性がでてきます。

(楽天ゴールデンイーグルス VS.ライブドアイーグルズは類似?より引用)

えっ。

出願してんの「イーグルズ」じゃん。「ゴールデンイーグルス」じゃないじゃん。

て言うか、出願しただけじゃん。登録されてないじゃん。

出願日が1日違いじゃ調査したって楽天にわかるわけないじゃん。

一応、真面目な話もしておくと、「livedoorイーグルズ」が登録されたとしても、正式名称の「東北楽天ゴールデンイーグルス」はまず非類似ですから使用しても問題になることはないでしょう。

通称の「楽天イーグルス」の使用は社名を除くと「ス」と「ズ」の違いしかないので類似と判断される可能性は十分にありそうですけれど、上記の記事では非類似とされる可能性が高そうと判断しています。

ここでポイントとなるのがこのネーミングが一連の商標として判断されるのか、それとも分離して判断されるのかということです。長いネーミングなどは、言葉の切れ目で分離して判断されることがよくあります。また漢字とカタカナや、英語とカタカナなどの造語の場合、見た目にも印象が変わるので分離判断される可能性は高くなります。一連としてそれぞれ「楽天イーグルス」と「livedoorイーグルズ」として判断されるのなら類似の可能性は低いと思われます。

とは言っても、さすがに後々問題になるのが明らかな出願を知っていて放置するのは得策ではありません。対処方法はいろいろ考えられなくもないのですが、おそらくシーズンインまでに時間的な余裕が無いので金で解決する方を選択したということでしょう。楽天がライブドアからその出願を買い取ったのは正しい判断だと思います。

一般的には登録前の出願を譲渡するならそんなに高額になりませんから、熊谷さんが仄めかしているように高額で譲渡したというのであれば、いわゆる商標ゴロに近い経済活動であったと言えます。

なんて言うか、哀れだな、と思いました。こういう大人にはなりたくないです。

ライブドアと言えば、当時の社長さんは日本人発明家がアップルから3億円の損害賠償を取った時に特許ゴロ呼ばわりしていましたが、自分の会社が似たようなことをしていたのはご存じだったのでしょうか。どうでもいいけど。