カテゴリー別アーカイブ: 書評

『発明家に学ぶ発想戦略』エヴァン・I・シュワルツ(著)

最近はこの手のビジネス系の意識高そうな本はとんと読まなくなりました。何のきっかけでいつ買ったのかもわからないのですが、いつの間にやら購入して積読状態だったので、何気なく読み始めたのですが、なかなか興味深い本でした。

本書の根幹のテーマは、著名な多くの発明家のエピソードなどから、その発想力の要諦を探り出そうということです。現在も活躍している多くの発明家にインタビューした内容がレポートされており、大変興味深いです。

各章のタイトルは以下のようになっています。大体タイトルだけで内容はある程度予想できる感じになっていると思います。

  • 第一章『可能性を創出する』
  • 第二章『問題をつきとめる』
  • 第三章『パターンを認識する』
  • 第四章『チャンスを引き寄せる』
  • 第五章『境界を横断する』
  • 第六章『障害を見極める』
  • 第七章『アナロジーを応用する』
  • 第八章『完成図を視覚化する』
  • 第九章『失敗を糧にする』
  • 第十章『アイデアを積み重ねる』
  • 第十一章『システムとして考える』

何人かの大発明家が各章で代わるがわる触れられています。多く取り上げられているのは、トーマス・エジソン、グラハム・ベル、ウディ・ノリス、スティーブ・ウォズニアック、ライト兄弟などなど。過去の偉大な発明家であって誰もが知っているような人から、大きな発明をし実績を積み上げつつある現代の発明家たちです。

各章で言いたいことはちょくちょく聞くようなことなので、驚くような目新しい説があるわけではありません。課題があって、解決するニーズがあって、その機会が与えられたとき、一見関係ない分野の応用や転用などを駆使して、失敗しても挫けず、改良を広く深く重ねることでイノベーションが生まれるというわけです。

本書の成果は、発明に必要な思考回路を体系的に整理したところにあるのだと思います。米国の事例が中心になっているのがさみしいところではありました。単純に著者が米国メディアの出身だからかもしれません。

最近は愛国精神丸出しの書籍がブームらしいと聞きます。文明開化から高度経済成長期くらいの日本の著名な発明家(豊田佐吉とか安藤百福とか)を集めてこういう書籍にまとめたら注目されるのではないだろうか、などと考えました。いかがでしょうか。

特に意識高い系の若い人に読んでいただいて、日本発のイノベーションを生み出す糧としていただきたいと思いました。

『ルポ 児童虐待』朝日新聞大阪本社編集局(著)

日本テレビのドラマの関係で児童虐待界隈が熱いようですが、特にそれとは関係なく朝日新聞の『ルポ児童虐待』を読みました。

本書は2007年5月から2008年3月まで朝日新聞大阪本社の社会面に連載された「ルポ虐待」を加筆して再構成したものです。なので実態としては少し情報が古い面もあるかもしれません。

第一章は『「鬼父母」と呼ばれた夫婦』。未熟児の双子を生み障害を持つ子と生育の遅い子の育児に追い詰められて、虐待の末わが子を殺してしまう夫婦の話です。母親は父から虐待を受けて育ち、駆け落ち同様に結婚。夫の実家も遠く誰も頼れるところがないまま追い詰められていく様子が痛々しいです。

第二章は『虐待をやめられない』。虐待を続ける母親の事例をいくるかと、そうした母親のケアをするための「親子連鎖を断つ会」の様子を報告しています。独身の私には実感がもてませんが、意外と身近なところにそうした事例は転がっているのかもしれません。

第三章は『児童相談所24時』。虐待通告を受け付ける児童養護施設の虐待専従班。文字通り24時間体制で活動を続ける様子を報告します。圧倒的なリソース不足の中、時に生命の危険も感じつつ試行錯誤を繰り返す姿に胸が痛みます。

第四章は『児童養護施設の子どもたち』。虐待を受けた子たちを保護するのが児童養護施設です。精神的に不安定な子どもたちの世話をする難しさがよくわかります。

第五章は『里親と育つ』。児童虐待被害児童を受け入れる里親の事例を報告します。日本では里親制度はあまり活用されていないようですし、私も実態はよく知りませんでした。

里親には、1年以内の期間で預かる「短期里親」、親族の子を預かる「親族里親」、虐待や非行など問題を抱える子を預かる「専門里親」があるそうです。専門里親になるには一定の研修を受ける必要があります。里親制度は虐待を受けた子にとって最も望ましい環境であると言われていますが、日本では要保護児童の6.2%しか利用できていません(オーストラリアでは91.5%、アメリカは76.7%)。晩婚化で子を持たない夫婦が増えるだろう今後は、里親制度をより活用する余地があるような気がします。

第六章は『傷ついた子と教師たち』。生徒が虐待を受けている場合、安易に家庭内の事情に踏み込むこともできず、学校の教師は難しい選択を迫られます。学区内に児童養護施設を持つ学校の教師なども無関係ではいられません。

第七章は『回復に向けて』。虐待を辞められない母親が抜け出すことを支援するグループ「MY TREE」。被虐待児ケアを行う診療科。近所の子たちに虐待の痕跡がないか目を光らせる見守りネットワーク。地域社会で児童虐待に向き合う人々の姿を報告します。

私は子どもがいませんので子育てがどれだけの負担を強いられるものであるか実感として理解できません。本書を読むと虐待を行う母親が最初からひどい親だったことはなく、むしろ自らも被虐待児であった場合も多く、最初は人並み以上に意欲的な母親であったことが感じられます。逆に理想と現実の間で疲れ果てて無意識のうちに虐待に至っているケースも多いようです。

未婚化、晩婚化で生まれる子どもの絶対数が今後も減少していく中で、無事に生まれてきた子どもを社会全体で守るという姿勢は皆が持つべきだろうと思います。しかし、自ら子育ての経験がないと、なかなか子育てに苦しむ両親に心を寄せることも難しく、そうした社会的な無関心がより子育て世代を苦しめる結果になっているのかもしれません。

現代社会では子ども持つことは誰にでもできることではなくなりつつありますが、せめてテレビや書籍などで何が起きているかを知っておかなければいけないという思いを改めて強めました。


関連記事

『ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件』杉山春(著)

『こころと脳の相談室名作選集 家の中にストーカーがいます』林公一(著)

人気Webサイト『Dr林のこころと脳の相談室』の電子書籍化です。大変興味深く読みました。

Dr林のこころと脳の相談室』は多数の著書がある精神科医、林公一さんが、読者からの質問に淡々と答える「精神科Q&A」がメインのコンテンツです。本日時点で2500を超えるQ&Aが掲載されています。

本書はこの「精神科Q&A」から厳選した55題をまとめた電子書籍です。

第一話は、本書のタイトルにもなっている『家の中にストーカーがいます』です。

林: 事実がこのメールの通りだとすれば、あなたのおっしゃるように、弟さんは統合失調症の可能性があると思います。
 しかし、どうもこのメールの内容は解せないところがあります。

(中略)

まさかとは思いますが、この「弟」とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。もしそうだとすれば、あなた自身が統合失調症であることにほぼ間違いないと思います。

出典:【1087】家の中にストーカーがいます

『まさかとは思いますが、この~とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。』というフレーズは聞いたことがあったのですが、全文を読んだのは初めてでした。統合失調症の怖さや精神科医のプロ意識が感じられる名文句だと思いました。

本書では統合失調症、うつ病の本人や家族、同僚などからの生々しい相談が掲載されており、精神病の実態が浮き彫りになっています。また、著者の回答はプロとしての冷静な観察力と洞察力が発揮されており、感嘆します。

本書では「擬態うつ病」についても多く触れられています。昨今は「新型うつ病」という名称が定着していますが、著者は擬態うつ病と本当のうつ病は区別すべきであり、精神科医が安易にうつ病の診断書を書く風潮に警鐘をならしています。

統合失調症は、日本人の100人に1人が罹る病気であり、適切な治療をすれば必ず治るものと言います。いつ自分や身の回りの人が罹るかは運次第なのでしょう。まずは正しい知識を持って適切な対処ができるようになっておくべきなのだろうと思いました。


『ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記』小林和彦(著)
『累犯障害者』山本譲司(著)

『今夜、すべてのバーで』中島らも(著)

故中島らもさんの自伝的小説『今夜、すべてのバーで』を読みました。第13回(1992年)吉川英治文学新人賞受賞作だそうです。

中島らもさんについては今まで読んだことがなくてあまり詳しいことは知りませんでした。すでに亡くなっていることも最近知りました。

興味を持ったのは、phaさんが自著『ニートの歩き方』の中で言及していたのを読んだからでした。

参考:『ニートの歩き方』pha(著)

物語は、主人公小島容(いるる)がアルコール中毒で病院に担ぎ込まれるところから始まり、回復して退院するところで終わります。病院の主治医や他の患者との交流を交えながら、病状の経過が描かれていきます。

アルコール中毒に罹ると何が起きるのか、治療によってどのような経過を辿るのか、医者との治療法に関する会話などの描写は、アルコール中毒に関するドキュメンタリーのようです。リアリティがあるのは当然で、中島らもさんの実体験がベースになっているからです。

本書が小説として優れているのは、主人公が病院を脱走して禁酒を断った晩に、同室の若い患者が亡くなるクライマックスからエンディングへの流れだろうと思います。展開としては、陳腐と言えば陳腐とも言えるのですが、冒頭では厭世的でいつ死んでもよいとも考えていた主人公が、患者の死とそれに関する医者との対話を通じて生きていくことを決意する心の動きの描写が秀逸だったと思います。

本書では、主人公は人生に前向きに変わっていき、希望に満ちた結末を迎えるわけですが、当人の中島らもさんはその後も破滅的な人生を送り、52歳で泥酔の末の事故死を遂げています。もしかしたら本書は中島らもさんの願望が描かれたものだったのかもしれないと思ったりもしました。

もう一つ、本書はよく言われることですが、ところどころに名言が散りばめられています。

例えば、次の有名な一節も本書で表れるものです。

「教養」のない人間には酒を飲むことくらいしか残されていない。
「教養」とは学歴のことではなく、「一人で時間をつぶせる技術」のことでもある。

最初は有名な作家だし、一冊くらいは読んでおいてもいいだろう、くらいで手にしたものですが、俄然興味が湧いてきました。他の著作も読んでみようと思います。

『なぜ、日本の知財は儲からない』ヘンリー幸田(著)

『米国特許法逐条解説』で有名なヘンリー幸田先生の新著を読みました。

大まかな流れは、知的財産制度の歴史を世界史的な観点から振り返って、日米の知財制度の対比から日本の進むべき道を説くというものです。

本書の目次はこうなっています。

  • 第1章 知財の本質を探る
  • 第2章 世界を動かした特許の歴史を辿る
  • 第3章 米国特許法の変遷
  • 第4章 日本の知財制度を振り返る
  • 第5章 経済の価値基準をハードからソフトに転換させた米国新国家戦略
  • 第6章 米国に生まれた新しい知財ビジネスの実態
  • 第7章 日本の知財活動:過去から現在
  • 第8章 知財を活かすための日本の課題
  • 第9章 理想の知財戦略

知財制度の歴史って、この業界で食ってる人でも個人的な興味がないとまったく知らない場合が多いです。ざっくり言えば、ベネチアで特許制度が生まれてグーテンベルクの活版印刷を普及させ、英国専売条例がワットの蒸気機関を保護し、米国特許法がエジソンとGEを生んだくらいを把握しておけばよいでしょう。詳しくは本書で。

ざっくり知財制度をおさらいした後は、米国のレーガン政権に話が飛びます。この間は米国が圧倒的な経済力で世界を席巻していたので、知財を保護する必要性がなかったのです。しかし、80年代、日本製造業の台頭で米国の製造業は壊滅的な打撃を受け、これに対抗するためにプロパテント政策に舵を切ります。その切っ掛けとなったのが有名なヤングレポートでした。

1985年のヤングレポートから2004年のパルミサーノレポートを経て、米国はハードの製造業からソフト産業へ転換を行いました。旧来は知財保護は本業を優位に展開するためのツールだったところが、近年では知財時代がマネーを生み出す仕組みが生まれてきています。

それが第6章に集約されていて、パテントトロール、パテントアグリゲータ、知財取引仲介業などなど、最新の米国の知財ビジネスが紹介されています。この辺りが一冊の書籍にまとまっているのは他にはあまり見掛けませんので大変興味深かったです。

著者は米国弁護士なので米国の知財業界に若干肩入れしている感もあります。しかし、本書で提言する内容は決して米国の制度を諸手を上げて受け入れようというわけでもなく、日本の事情を十分に考慮しており、大変納得感のある内容でした。

本書は、知財制度の歴史的な流れから、現在知財保護で最先端を行く米国の知財ビジネス事情を知り、日本との違いを浮き彫りにします。日本ローカルで知財の仕事をしているとなかなか身に付けられない視点を与えてくれる良書だと思いました。

一点だけ難を言えば、このタイトルは酷すぎます。どうしても胡散臭さが拭い切れません。この手のビジネス書だとおそらく出版社が決めるんだと思いますが、もったいないくて仕方ありません。

知財制度の歴史については、『世界を変えた発明と特許』という新書も手軽に読めてよいです。著者は大阪工業大学の専門職大学院教授なんですね。

『この世でいちばん大事な「カネ」の話』西原理恵子(著)

人気漫画家、西原理恵子さんが自らの半生をお金の切り口から綴った作品です。

大変に評判のよい本なのは承知していましたが、改めて言います。これは名著です。特に中学生、高校生にはお勧めしたいです。社会に出る前に読んでおくべき一冊だと思いました。

ざっくり内容を紹介します。

第一章では、高知県で育った貧しい子ども時代の思い出を綴ります。

chapter1

第二章では、高校を中退して東京の美大に進学し、バイトで稼いで漫画家としてデビューするまでの流れが描かれます。

chapter2

第三章では、漫画家として軌道に乗った後にギャンブルと為替で借金を負ってわかったことを語ります。

chapter3

第四章では、これまでを振り返って、幸せを掴むためにカネは不可欠なこと、自分で稼いでカネを手にすることの重要さ、カネと引き換えにするものとのバランス、などを説いています。

chapter4

第五章では、亡夫である鴨志田譲さんとの思い出や彼と出会って旅したアジアの貧しい国で学んだことを伝えています。

chapter5

西原さんの代表作『ぼくんち』は1995年から1998年にビックコミックスピリッツに連載されていました。この頃、私は大学生で長距離通学をしていたので毎週欠かさずスピリッツを読んでいました。

でも、私はこの漫画が好きではありませんでした。そこで描かれる世界は自分の周囲の世界とはあまりにもかけ離れていたからです。世間知らずの大学生だった私には嘘くさく感じられて不快な気持ちになったものでした。

大人になって多少世の中がわかってきて、こんな話をもっと若い頃に知っていたらもっと豊かに生きられたかもしれないなぁと思いつつ、若い頃に読んでもやはり実感が湧かずに鼻で笑ってたかもしれないなぁとも思います。よくわかりません。

本書では西原さんは子どもに対して語り掛けるように話を進めます。その言葉はとても平易で直接的です。だからこそ本質がむき出しにされて心に刺さるのだろうなぁと思いました。

どうにもカネの話を公にすることが憚られる風潮がありますが、やはり痛い目に会う前にカネの本質を知っておくべきだと思うのです。私のようになりたくなければ(参考)。

ぜひ中学生、高校生の皆さんにおススメしたい一冊です。

『数学ガール ガロア理論』結城浩(著)

高校生の「僕」が女子高生のミルカさん、テトラちゃん、中学生のユーリといちゃいちゃしながら数学を学ぶ『数学ガール』シリーズの第5巻「ガロア理論」を読みました。

ガロア理論はエヴァリスト・ガロアに端を発する代数学の理論です。その内容をここに自分の言葉で説明することはできません。面目ない。とりあえずWikipediaなど参照してみてください。

ガロア理論 – Wikipedia

仕事の関係でざっくりと現代の情報数理について押さえなければいけない事情がありまして、まずガロア理論を理解しないと話にならないと言われまして、いろいろ当たってきた結果、行き当たったのがこの『数学ガール』シリーズでした。

全体的な構成は、第10章でガロアの第一論文の内容を説明することになっていて、第1章から第9章まではそのために必要になる概念を一つづつ押さえて行く形になっています。

全般的に物語仕立てでステップ毎にわかりやすいように丁寧に説明をしてくれています。各章ごとに何だかすごくわかった気分にはなれます。実際に他の本とか読んでもよくわからなかったことが、そういうことか、と得心できる箇所が多くありました。

で、満を持して第10章に臨むわけですが、ダメでした。。最後まで読んでみましたけど、自分の言葉で説明できるレベルには至りませんでした。

たぶん何度か繰り返し読むか、違う本で違う角度からの説明を読むか、まだまだ理解を深めなければいけないんだろうと感じました。

そんなわけで、とりあえず1回読んだ結論です。私が一般的な理解力を持っていると仮定するならば、これを通読したとしても一発でガロア理論を理解することはできません。

だからと言って読む価値がないとは言いません。むしろおススメしたい。たぶん正しい読み方は、正当な教科書を中心にして、わからなかったところを補強するサブノート的な使い方がいいんじゃないかと思います。

とは言っても高校生がいちゃいちゃしながら勉強するライトノベル的要素も十分に楽しめるので、内容を理解できずとも最初にざっと読み通して、改めて必要に応じて読み返すのがよいのではないかと思いました。

しかし、このシリーズを読むと毎度思うのですが、なんで男子校なんて行っちゃったんだろうなぁ。

これから特許実務を始める人が読んでおくべき3冊

気が付けばすでに今年度の弁理士試験合格者に対する実務修習が開始されていたようです。

特許事務所や企業の知財部で実務経験がある人も多いでしょうけれど、合格して初めて実務に触れる人もそれなりにいらっしゃることでしょう。実務修習の範囲も広いですから、普段は特許しかやってなくて商標の実務は初めてみたいな人も多いのではないでしょうか。

私が特許関係の仕事を始めて気がつけば2年半ほどになりました。基本的にはOJTで仕事を覚えて行きましたが、やはり体系的な理解に欠ける面は否めません。

その辺を埋め合わせるために私が読んだ実務系の書籍の中で、とりあえずこれだけ読んでおけば何とかなるんじゃね、と思う三冊を厳選してみました。基本的には国内の特許出願実務を行う人が対象です。あしからず。

新・拒絶理由通知との対話

三冊の中でもさらに一冊を選べと言われたら、これを推薦します。特許実務は大きく出願書類を作成する仕事と、特許庁からの拒絶理由通知に対応する仕事に分かれます。前者は「新規案件」、後者は「中間対応」などと通称されます。

出願書類は出願公開制度により誰でも参照できるようになっています。要するに、お手本になるサンプルが溢れている状態です。あまり慣れてない技術分野にあたるときには、同じ分野の過去の出願書類を参照して、真似してみるところから入るのが基本です。

一方で、中間対応の書類は一般には公開されていません。一応、審査関連書類は後々裁判になったときなどに参酌されるのでファイルされているのですが、閲覧請求しないと見ることはできません。つまり、お手本が限られた数しかないってことです。

本書は、特許庁の元審査官の方が中間対応はどのように行うべきか、拒絶理由ごとに記載したものです。語りかけるような平易な文章で書かれているのも好感が持てます。今だに思い出した頃にパラパラ眺めてみたりします。必携の一冊と言っても過言ではないでしょう。

日米欧三極共通出願時代の 特許クレームドラフティング

極論すると、特許の権利取得実務とは、請求項をどう書くかということです。請求項の記載が権利範囲を決めるわけで、明細書や図面は最終的に請求項をより有利な形に持って行くための道具と捉えるべきだと考えています。

本書は250ページほどの実務書としては薄っぺらい本です。でも、多くの留意事項が簡潔に詰め込まれていて、中味は驚くほど濃いです。次に挙げる同じ著者による書籍と併せて読んでおくとより効果的です。

日米欧中韓共通出願様式時代 特許明細書等の書き方

明細書の書き方は多くの本が出されています。特許庁からも多くの資料が出されています。ただし、ほとんどの資料は逐条的な書き方がされていて、この項目にはどういうことを書くかと言うことが丹念に記載されている場合がほとんどです。

本書の特色は、実際に明細書を書く弁理士や特許事務所員を対象にしたものではなく、発明者や出願人を対象にして、弁理士や特許事務所員によい明細書を書かせるために渡すドラフトをどう書くか、というところに主眼を置いているところです。

瑣末なことは置いておいて、特許明細書とは何なのか、その本質を伝えようとしていることが理解できます。何事においても最初の段階では本質を理解することが重要です。そういう意味で、本書はこれから明細書を書き始める人にとって一読しておくべき一冊としてお勧めします。

実務修習を受ける人が今からこれら全部読んで修習に活かすのは厳しいでしょうけれど、ある程度実務を経験してから改めて読んでみるとまた新しい発見があるはずですから、本気でこの仕事に入っていこうとする方には、黙ってこの3冊買っておけ、と言っておきたいです。

『登山不適格者』岩崎元郎(著)

山に足を踏み入れるすべての人に読んで欲しい一冊です。

時間が余ったので書店をぶらぶらしていたときにふと目に止まってジャケ買いしました。よく見たら初版発行は2003年。すでに13刷を重ねているロングセラーのようです。恥ずかしながら私は書店で目にするまで存じ上げませんでした。

書かれていることは至極ごもっともでした。私もそれなりに気を付けているつもりではいましたが、身につまされるご指摘が多く含まれていました。何しろ1ページ目から「趣味登山は4人から」とのご指摘がありましたから。私は友達がいないので9割方は単独行です。

たぶん本書に書かれていることをすべて完全にやれている人なんてほんの一握りで、多くの人は全体の2割とか3割とかできてないところがある感じなんじゃないかな、なんて思いました。

著者自身が「自分でもできてないけど…」みたいな書き方をしているところすらありますから(P.155『登山口までは足を使わぬマイカー族』)。

本書では数多くの登山するにあたって気を付けるべきポイントが示されています。交通が便利になり登山道具が進化することで一人でも気軽に登山を始めることができるようになりました。皮肉なことに登山環境が進歩することで、山岳会とか登山サークルとかは敬遠される傾向が強くなっていて、経験豊富な先輩たちに指導を受ける機会を持たない人も多いです。私もその一人ですけれど。

山岳雑誌を読んだり、山小屋などで話を聞いたり、周りの人の振る舞いを注意深く見たりしていれば、ある程度はやっていいこととやってはいけないことは見えてくるような気もするのですが、遭難防止のためにやってはいけないこととか、それなりの経験を積んで相当な想像力を働かせないと思い至らない内容も多いです。

挑発的なタイトルとは裏腹にすべての登山者が一度は眺めておくべき名著だと思いました。だからこそこんなロングセラーになっているのでしょうね。

『平成大不況編 今日、ホームレスになった』増田明利(著)

『今日、ホームレスになった』『今日、派遣をクビになった』のさらに続編を読みました。構成は前二作と変わりありません。

本書の初版は2010年8月です。リーマンショック後のホームレス事情を追った本との触れこみです。実際にはそうでもありませんでした。

第一章は「クビを切られて」。大手企業の管理職をはじめとして長年正社員として働いていた人がリストラを契機に家庭崩壊、ホームレスまたはネットカフェ難民に陥る経緯を取材しています。

第二章は「廃業の果て」。タイトルの通りに元経営者が廃業の末にホームレスとなる事情を取材しています。家業を継いだ人、一念発起して起業した人、様々な事情がありますが、羽振りのいいところからちょっとしたきっかけで落ちていく姿に胸が痛みます。

第三章は「借金地獄」。住宅ローンや事業資金の借金があるところにリストラや業績悪化から返済が滞り、雪だるま式に膨れ上がっていった末に破産した人たちに取材しています。

第四章は「ヤングホームレスの素顔」。就職難からフリーターになった人、就職先の倒産で再就職がうまくいかない人など、ネットカフェ難民となっている20代から30代前半までの若者を取材しています。

売り文句とは裏腹に、リーマンショックの影響と言うよりは、バブル崩壊からデフレによる不景気の影響で苦境に陥っている人が多く出てきます。そういう意味では前二作とそれほど大きな違いはありません。

やはりそこにはパターンがあって、中高年の場合には、リストラ・倒産→再就職に失敗→生活苦→家庭崩壊→ホームレス、という流れが多いです。若者の場合は、就職失敗→ネットカフェ難民が一つのパターンになっているようです。

一番心に残るのは、就職に失敗した若者たちの無気力さでした。他の中高年と比較して悲壮感が全くありません。今までもいいことなかったし、こんなもんでしょう、という諦観が通底しているように読みました。こうなってしまうと多少景気が上向いても彼ら彼女らの生活が向上するようには思えません。何とかならないものでしょうか。

自民党の政権復帰から一年経って株価や円相場は復調しましたけれど、主にその恩恵を受けているのはそれ以前に一定の財をなしていた人たちだけのように見えます。やはり当初から政府が言っているように雇用と賃金が浮上するところまでいかないと格差の拡大を助長するだけに終わってしまうなぁと思います。

だからと言って自分にできることは思い浮かばないのですが。

何にしても2014年は重要な一年になることは間違いありません。来年のことを言うと鬼が笑うといいますが、自分の生活は自分で守ることを肝に銘じて着実に生きていきたいと思いました。

がんばるぞー