冤罪事件について知るために読んでおきたい5冊と観ておきたい1枚

去年の話ですけれど2012年11月7日(水)に、いわゆる東電OL殺人事件の再審で無罪判決が出ました。冤罪被害者のゴビンダ・プラサド・マイナリさんには日本国民として心からお詫び致します。

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記事によると戦後に発生して死刑又は無期懲役が再審で無罪となった冤罪事件は8件目だそうです。調べてみると、他の7件は以下のようです。(括弧内は事件発生年。リンクはWikipediaの該当ページに跳びます。)

・死刑確定から再審無罪
財田川事件(1950年)
島田事件(1954年)
松山事件(1955年)

・無期懲役確定から再審無罪
弘前大学教授夫人殺人事件(1949年)
梅田事件(1950年)
布川事件(1967年)
足利事件(1990年)

Wikipediaには疑いのあるものを含めて冤罪事件についてよくまとまっていました。もうビックリするくらい冤罪事件が発生していることがわかります。

冤罪事件及び冤罪と疑われている主な事件 – Wikipedia

ニュース記事だけを見ていても本当に何が起きているのかは見えて来ません。誰がいつ冤罪事件に巻き込まれるともわかりませんから、一人でも多くの国民が警察と司法の手口を把握して冤罪が生み出されるメカニズムを知ることが、少しでも悲惨な冤罪事件を減らすことに資すると思います。

私は昨年くらいから積極的に有名な冤罪事件を追跡した書物を読んできました。読み終わる度に感想をこのブログに書き残すこともしてきました。目に付くところは一通り押さえられたと思いますので、この機会にまとめてご紹介しておきます。

東電OL殺人事件

2012年に再審で無罪となった東電OL殺人事件について追い掛けた本です。様々な現代社会の闇が強烈に描かれていて大変な衝撃を受けました。何も言わずに読んでおいて欲しい一冊です。

 1997年(平成9年)3月19日に、東京都渋谷区円山町にあるアパートの1階空室で、東京電力東京本店に勤務する女性(当時39歳)の遺体が発見された。発見し通報したのは、このアパートのオーナーが経営するネパール料理店の店長であった。後に被告人となるネパール人男性は、このアパートの隣のビルの4階に同じく不法滞在のネパール人4名と住んでいて、被害者が生前に売春した相手の一人でもあった。死因は絞殺で、死亡推定日時は同8日深夜から翌日未明にかけてとされる。
 1997年(平成9年)5月20日、警視庁は、殺害現場の隣のビルに住み、不法滞在(オーバーステイ)していたネパール人男性を、殺人事件の実行犯として強盗殺人容疑で逮捕した。逮捕されたネパール人男性は、捜査段階から一貫して無実を主張した。
(東電OL殺人事件 – Wikipediaより引用)

著者は週刊朝日に橋下徹大阪市長のルポを書いて問題を起こした佐野眞一氏です。この頃はすごいノンフィクション作家だったんですけどね。最近の著作は私情が先行していて辟易とします。

書評を書いています→『東電OL殺人事件』佐野眞一(著)
続編はこちら→『東電OL症候群(シンドローム)』佐野眞一(著)

足利事件

こちらも記憶に新しい再審無罪の事案。栃木県と群馬県の県境近くで発生した幼女連続誘拐殺人で知的障害境界域の男性が冤罪被害者です。普段明るみに出ない闇の部分が浮き彫りにされた事件でした。

 足利事件(あしかがじけん)とは、1990年5月12日、日本、栃木県足利市にあるパチンコ店の駐車場から女児(4歳)が行方不明になり、翌朝、近くの渡良瀬川の河川敷で遺体となって発見された事件。犯人として誤認逮捕、起訴され、実刑が確定して服役を余儀なくされた菅家利和と、遺留物のDNA型が一致しないことが2009年5月の再鑑定により判明し、確実な無実、さらに冤罪であったことが発覚。服役中だった菅家はただちに釈放され、その後の再審で無罪が確定した。再審を日本弁護士連合会が支援していた。 冤罪事件であると同時に真犯人が検挙されていない未解決事件でもある。 当事件を含めて、足利市内を流れる渡良瀬川周辺で遺体が発見された3事件は「足利連続幼女誘拐殺人事件」とされている。
(足利事件 – Wikipediaより引用)

書評を書いています→『足利事件(冤罪を証明した一冊のこの本)』小林篤(著)

狭山事件

こちらは無期懲役確定後、再審請求するも認められていませんので、冤罪と確定したわけではありません。受刑者は被差別部落出身で義務教育も十分に受けていない男性。すでに高齢ですから早急な名誉回復が待たれます。著者は最近は反原発運動で有名な鎌田慧さんです。

 1963年5月23日に被差別部落出身で元養豚場勤務の鳶職手伝い・石川一雄(当時24歳)が逮捕され、のちに強盗強姦・強盗殺人・死体遺棄・恐喝未遂・窃盗・森林窃盗・傷害・暴行・横領で起訴され、一審では全面的に罪を認めたが、一審の死刑判決後に一転して冤罪を主張。その後、無期懲役刑が確定して石川は服役した(1994年に仮釈放されている)。
 本事件については、捜査過程での問題点が提起されており、石川とその弁護団及び支援団体が、冤罪を主張して再審請求をしている。また、石川が被差別部落の出身であったことから、この事件は部落差別との関係を問われ、大々的に取り扱われることとなった。したがって、部落解放同盟や中核派・革労協・社青同解放派の立場からは、この事件に関する裁判を狭山差別裁判と呼ぶ。
(狭山事件 – Wikipediaより引用)

書評を書いています→『狭山事件の真実』鎌田慧(著)

名張毒ブドウ酒殺人事件

死刑が確定した後、再審請求している事件です。こちらも冤罪と確定したわけではありません。狭山事件同様、受刑者がすでに高齢のため早急な解決が求められます。著者はテレビのコメンテーターとしても有名な江川紹子さんです。

 1961年3月28日、三重県名張市葛尾の薦原地区公民館葛尾分館(現存しない)で、地区の農村生活改善クラブ(現「生活研究グループ」)「三奈の会」の総会が行われ、男性12人と女性20人が出席した。この席で男性には清酒、女性にはぶどう酒(ワイン)が出されたが、ぶどう酒を飲んだ女性17人が急性中毒の症状を訴え、5人が亡くなった。捜査当局は、清酒を出された男性とぶどう酒を飲まなかった女性3人に中毒症状が無かったことから、女性が飲んだぶどう酒に原因があるとして調査した結果、ぶどう酒に農薬が混入されていることが判明した。
 その後、重要参考人として「三奈の会」会員の男性3人を聴取する。3人のうち、1人の妻と愛人が共に被害者だったことから、捜査当局は、「三角関係を一気に解消しようとした」ことが犯行の動機とみて、奥西を追及。4月2日の時点では自身の妻の犯行説を主張していたが、4月3日には農薬混入を自白したとして逮捕された(逮捕直前、奥西は警察署で記者会見に応じている)。しかし、逮捕後の取り調べ中から犯行否認に転じる。
(名張毒ぶどう酒事件 – Wikipediaより引用)

書評を書いています→『名張毒ブドウ酒殺人事件―六人目の犠牲者』江川紹子(著)

裁判官はなぜ誤るのか

著者は裁判官から退官して弁護士になった方で、裁判官としても弁護士としても多くの冤罪事件に関わってきた経験から、なぜ誤判が起こるのかを構造的に浮き彫りにする書です。

裁判官としては立場上なかなか大っぴらに語ることは難しいテーマだと思いますので、非常に貴重な記録だと思います。

書評を書いています→『裁判官はなぜ誤るのか』秋山賢三(著)

それでもボクはやってない

実際の痴漢冤罪事件を題材にした映画です。2007年1月公開、周防正行監督、加瀬亮主演。当時から話題になっていたので観た方も多いでしょう。

事件の性質が違うのでちょっと毛色が違いますが、どうやって冤罪事件が警察や司法によって作り出されていくのか、実態が生々しく描かれています。見ててぞっとします。

映画評を書いています→映画『それでもボクはやってない』加瀬亮(出演)、周防正行(監督)


冤罪を生み出す要因はいくつもありますが、これらの事件を比較してみたときにわかることが、特に2つあります。

一つは、事件発生当時から世間の注目を浴びる重大事件であったこと。例えば、東電OL殺人事件は被害者が東京電力の初の女性管理職となったエリート社員でありながら夜には渋谷の円山町で売春していたことがセンセーショナルに報じられました。また、足利事件では周辺地域ですでに2件の未解決な幼女誘拐殺人事件が発生しており警察への避難が高まっている中で発生しました。名張毒ぶどう酒事件は100人ほどの集落で無差別的に飲み物に農薬が仕込まれ5人が亡くなるという凄惨な状況が大きく報じられたようです。

もう一つは、冤罪被害者が社会的な弱者であること。例えば、東電OL殺人事件は不法滞在の外国人、狭山事件は被差別部落で非識字の男性、足利事件は軽度の知的障害がある男性が被告とされました。名張毒ぶどう酒事件でも容疑者が日常的に電気窃盗を行なっていたことが虚偽の自白をした要因と言われています。

警察が威信を問われるような重大事件が起き、決定的な証拠が得られず操作が行き詰ってきたところに、自供に誘導しやすい社会的な弱者が捜査線上に現れたとき、冤罪が生み出されやすいと考えることができます。

警察は自分たちの威信を守るためであれば、確たる証拠がなくても都合のいい人間を犯人に仕立てることを平気で行います。被疑者の自白があれば公判を維持できるから、あの手この手で自白をさせればいいわけです。

ちなみに上記のほとんどの事件に関与している裁判官がいました。高木俊夫という人です。狭山事件で再審請求を却下決定、東電OL殺人事件で一審無罪を逆転で無期懲役判決に、足利事件では控訴棄却で一審の無期懲役を維持。「ミスター冤罪」と呼ばれている裁判官です。

この方、2007年春に瑞宝重光章を叙勲しています。彼の仕事については上掲の『東電OL症候群(シンドローム)』が詳しいです。このような人でも、というかこのような仕事をしなければ裁判官としての出世が望めないことが、この国の司法制度が多くの問題を抱えている証左なのではないでしょうか。

冤罪は国家による凶悪な犯罪です。少しでも減らすことができるように国家機関は自浄努力をしていただきたいし、われわれ国民は報道を鵜呑みせずにしっかりと監視していかなければいけないと思います。

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